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MEDIA掲載情報

東京新聞(長泉町出張所)
2023-09-04
 売らない、貸さない、買い取らない。できるのは立ち読みだけ-。そんな異色の書店が今夏、静岡県長泉町にオープンした。沼津市を本拠とする「マルサン書店」が「出張所」として構えたところ、親子連れなどの人気スポットになっている。紙の書籍離れが進む中、担当者は「出張所は1円の利益にもならないが、本が生活の一部になってもらえたら」と話す。(今坂直暉)
 書店らしくない店構えの出張所。中に入ると、児童書や学校の課題図書など約600冊の本がずらりと並んでいる。本は店の在庫や出版社から借りた商品を置き、定期的に入れ替えるという。室内中央には小さな机があり、ゆったりくつろげるような内装になっている。周辺に小中学校があることから児童や生徒も多い地域。今後は建物の2階部分を学習スペースに改装する。

 創業1902年で、沼津の老舗として知られるマルサン書店。昨年、旗艦店が閉店するなど苦境が続く中で、利益を出さない出張所をなぜ開設したのか。常務執行役員の杉山孝さん(49)は「子どもの成長過程に本があると、大人になっても自然と本を読んでくれる。駄菓子屋みたいに気軽に集まって本を楽しめる場所をつくりたかった」と狙いを語る。
 室内で、娘の未奈ちゃん(5)と、折り紙の本を見ながら実際に折るなどして楽しんだ小林祐理子さん(35)は「子どもにはタブレットやスマホ漬けになってほしくない。図書館だと静かにしないといけないが、ここなら楽しく過ごせるので来ることが多くなった」と喜んでいた。
 電子書籍の市場が拡大する一方、紙の本離れは進み、書店の減少が続く。出版科学研究所(東京)によると、県内でも2013年6月の521店から23年6月には343店になった。書店業界には厳しい環境だが、同研究所の原正昭所長はマルサン書店の出張所の取り組みに「紙の本は体裁と触り心地などを含めた商品で、電子書籍では代替できない。地域の書店が減少している中で、親子で読みたいものを選んだり、子ども自身が選ぶ環境を整えたりすることは非常に重要。出張所もそうした機会を創出している」と評価した。
 出張所のオープン日は不定期で、マルサン書店のホームページか公式インスタグラムに掲載する。オープンは午後1時半から午後5時まで。


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